連載⑰: 『じねん 傘寿の祭り』  二、ふれんち・とーすと (4)

二、ふれんち・とーすと ④

物件があるビルは国際通りに面してはいない。面したビルの後方にドンと凹んだビルだった。だから、ビルの入口は、国際通りに直角に交差する路地に在る。若者や観光客向けの派手な四階建てのビルだった。平日とはいえ、そして昼食時だとはいえ、ビル内は人が疎らだった。それだけで判断はできない。夜や休日、観光シーズン、全てを観察しないことには・・・。ビルには、CDショップ、若者向けのファッション店、ジーンズ店、女性下着店、安物のアクセサリー店、化粧品店などがあったが、各フロアに空店舗が目立つ。                                                                                                                黒川が案内した「物件」は、四階の隅に在った。四階には特に空店舗が多く、半分くらいしか稼動していない。空店舗の中から、この物件を選択した理由が分からない。                                                                                                                                           黒川の取扱い商品、顧客の層、長時間話し込み店主と意気投合してじっくり吟味して買う…そういう商いのカタチに絶対合わない。この場所はそれらの要素からはむしろ敬遠される派手さ・喧騒・軽薄さに溢れている。                                                                                                                                                                   「どうして、この場所このビルこの区画なんですか?」                                                                                        「フフフン、見てみなさい。他は全部フロアの中央部だろう、四面がオープンだ。従って、高価な品を管理するのに大変だ。その点、これは後ろが壁、三角形だから通路に面しているのは一面。管理し易いじゃないか」                                                                                                             「物件」は売場通路に沿って斜めになった区画だ。ビル自体が、土地の関係で一面が斜めになっている。通路配置を考慮したレイアウトの結果、斜め構造の一面は各フロアとも同じ区画割に違いない。バックが躯体壁面、右側が三角形の鋭角の頂点、左がトイレへ通じる通路を仕切る壁面だった。バックの壁が約十八M、左の壁面が約六M。五十四㎡、約十七坪。広い。                                                                                                                                                   営業時間はどうなのか、商品管理も何もそもそも誰が店に常駐するのか? 黒川から聞いていた話では「百貨店の催事、沖縄各地の展示会に向けた営業、成約時の準備、全国の陶芸家・画家・版画家などの確保と品物の収集、その開梱作業、終了した後の品物の荷造り、その返送、金銭管理・集計と目が回るほど忙しいんだよ」だった。その忙しさが話半分いや四分の一であっても、ユウくんとの日常生活から判断しても、ニトロを離せない健康状態からしても、黒川は連日遅くまで店に居ることは出来まい。ならば、ギャラリー・ショップの常駐は誰がするのか?まさか俺が? それは聞いていないし、無理だ。商品知識も無い、ずっとここに居るわけでもない。                                                                                                                                                         「ここは、若者向けのファッション・ビルです。焼物陶芸や絵画版画のギャラリーとしてはどうでしょうか? それなりに金もある、陶芸品に興味がある、黒川さんを支援したい、そういう人が来ますかね? ぼくは、ここは違うと思いますよ。大阪で構えていたような場所がいいんじゃないですか?」                                                                                                                                                                 「そんなことはない。第一、家賃がタダなんだ。ぼくの構想から言えばこんないい条件は二度とないよ。それにすでに契約している。三日前契約は済ませたんだ。今日、手付金を払うんだ」

 黒川が勇んでビルの事務所へ向かうので、付いて行くしかない。黒川は何度か面識があるのか担当者と親しく挨拶を交わし、早々と手付金一〇万円を渡してしまった。重要事項説明も三日前に受けているのだ。                                                                                                                                                                      こういうことだった。家賃無料というのは売上の出来高制ということで、単に固定ではないという意味だった。もちろん、最低家賃は設定されている。裕一郎は、無期懲役というのは終身刑ではなく期間を定めない刑である、そんなことを思い浮かべていた。                                                                       

                                                                   

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