連載①: 『じねん 傘寿の祭り』  プロローグ (1)

08年から約七割は書いて来た第三作(自称「祭り三部作:最終篇」)を、ゆっくり添削しつつ連載します。                                                                                                                                               『じねん 傘寿の祭り』という奇妙なタイトルです。                                                                                        漱石の初期三部作は 「三四郎」は「それから」「門」を出た などと言われますが、                                                                当方のは『「笛」は「海峡」に漂い、「傘寿」板にしがみ付く』とでも表すしかないシロモノ。                                                   (02年『祭りの笛』、06年『祭りの海峡』、11年『じねん 傘寿の祭り』)                                                                                         連載することでなんとかエピローグへ辿り着けるんじゃないか、という囁きに誘惑されスタートします。                                       一回3~4枚分として、約100回連載かな…。主人公「じねん」には、モデルが居ますが、執筆に際しご本人・元奥様のご了解を得て書きました。                                                                            フィクションですので、基本線以外、実際とは大きく異なります。 お二人のご理解に感謝します。

【時代背景】                                                                                                                        二〇〇五年四月~同年九月七日

【登場人物】                                                                                                                                                                                                                                                                                  黒川自然(じねん): 何ゆえなのか、高齢にして沖縄へ移住した画廊オーナー。(七十八歳)                                                                                       黒川裕: 自然のダウン症の息子。                                                                                                         黒川美枝子: 裕の生母。(五十七歳)                                                                                                                                         北嶋裕一郎: 自然から頼まれ、ギャラリー開設までとの約束で沖縄に来た団塊フリーター。(五十八歳)                                                                                                                          吉田高志: 裕一郎の学生期からの友人。全てを失った時期の裕一郎に仕事先を用意した。(五十八歳)                                                                                                                                    吉田(篠原)玲子: 高志の妻。裕一郎唯一の女友達。(五十六歳)                                                                                                          松下亜希: 高志の会社の元社員。沖縄に流れ住んでいる。(二十九歳)                                                                                    知念大空: 沖縄で陶芸・琉球ガラス・の工房兼店を営む。自称「作家」でもある。(四十歳)                                                                                                                     知念太陽: 大空の伯父。高名な陶芸家。(五十四歳)                                                            比嘉真: 沖縄の反戦版画家。その生き様を通して裕一郎に「沖縄」を伝える。(六十九歳)

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じねん 傘寿の祭り 

プロローグ ①

 那覇空港から「ゆいレール」でふた駅。高架駅の改札を出ると、駅舎に繋がる陸橋を、見覚えのあるズングリ姿が踊るように走ってやって来る。ユウくんだ。もう夏を思わせる四月の西陽に照らされ、頬と頭髪が紅く染まっている。改札口へ吹き上げて来る熱気を受けて、ユウくんの額に噴出した汗が輝いていた。                                                                                                                                 大阪での記憶があるのか、きょう直前に父親から教えられたのか、ユウくんは大きな声で「北嶋さぁ~ん」と呼びかけている。                                                                                                 北嶋裕一郎はユウくんの後方に、長い銀髪の老人を認め苦笑した。陸橋へ上る階段の途中に立ち止まり、左手で手摺に摑まり右手を振っている。父親黒川自然だ。息切れているに違いない。大学教授のような独特の語り口調を、そのまま形にしたようなどこか不自然な姿勢を保ち、背を反らして伸ばしていた。                                                                                                                             ユウくんが勢いよく体をぶつけて来て言う。                                                                                         「北嶋さ~ん、逢いたかったよぉ」                                                                                                                     「半年も経つのに、おじさんの名前を憶えてるんやな」                                                                                                                                 「うん。北嶋裕一郎!」                                                                                                                    「ほお、下の名前まで憶えてくれてるんか?」                                                                                                                    「ゲームくれたし、北嶋さんの裕一郎のユウはぼくのひろしと同じ字だって、チチに聞いたよ。北嶋さん、あの時のお姉さんは?」                                                                                                      そうなのだ。去年十月の終わり、大阪北部の衛星都市。黒川自然が沖縄へ発つ直前、駅前の彼の自宅店舗に積み上げられたダンボール箱を壁側に移動させ、床に場を作りブルーシートを敷き、黒川夫妻とユウくん、夫妻の永年の馴染み客や友人数人に何故か自分も混じって、黒川一家の送別会をしたのだった。黒川は那覇の百貨店での陶芸展の都合で明日発ち、ユウくんと母親美枝子は荷の積み出しや後片付けもあって二日後に発つのだと聞いた。                                                                                                                                                                                                     黒川のギャラリーでは新参者である裕一郎が送別会に呼ばれたのは、沖縄の版画家・比嘉真の縁だった。何年か前、大阪に常時展示してもらえるギャラリーを探していた比嘉に、黒川を紹介したのだ。比嘉とは二十五年以上前に互いの苦境を援助し合って以来の関係、黒川とは同じ街に住む者同士であり駅前の居酒屋の呑み仲間でもあった。裕一郎が仲を取り持ったのだ。                                                                                                                                              比嘉は最初一・二度ギャラリーにやって来たが、活動領域も広く忙しくまた遠方でもある。当初黒川への比嘉の業務上の要望は、裕一郎が取次いでいた。比嘉の作品を気に入っていた夫妻は、駅前で呑んだついでに一杯機嫌で立ち寄るだけで何を買うわけでもない裕一郎を、いつも歓待してくれた。年に四・五回訪ねただろうか。                                                                                                                                     夫妻の一粒種たるユウくんは、くろかわひろし、黒川裕なのだ。ユウくんが父親のことをチチと呼ぶことは行く度に見聞きしていた。今、久し振りに「チチ」と聞かされると時間と距離は一瞬にして消えてゆく。                                                                                                            そう、「あの時」は現場管理していた施工現場が終了した打上げの帰り、黒川一家の送別会にたまたまその「お姉さん」と同行したのだった。                                                                                                     

                                                                                                                                                                                               

One Response to “連載①: 『じねん 傘寿の祭り』  プロローグ (1)”

  • 吉本研作 says:

    ありがとうございます。少し恥ずかしいです。開高健みたいな文章はとても無理ですが、美文調の大袈裟な修飾に次ぐ修飾語で、
    このような文章は悪文の典型だそうです。友人の成田一徹氏はあれだけエッセイを書きながら文章は悪戦苦闘だそうです。
    なんで?上手だのに。と言うと「いやー、切り絵は何とか自信があるけど文章は…。」だそうです。
    貴兄は三部作の完結編ですか?この話は前に聞いたので自分の体験から引き出すので映像が浮かびますでしょう?
    ぼくも書かなければと焦るっているのですが、その余裕がありません。頭の中には出来ているのですが…..。
    前にほめてくれましたね。「暑い、たまらなく暑い…。」なんて。面白い事請け合いなんですがね。
    またお会いしましょう。そろそろ貴兄のブログも一年、幅広くチャレンジしていますね。

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