「みんなで共謀しナイト2018夏」
8月10日(金)京都は木屋町の「わからん屋」へ出かけた。
「みんなで共謀しナイト2018夏」のパギ+中川五郎+川口真由美+裏猫キャバレーのジョイントライブだ。四条から高瀬川沿いを北へ歩くと、その昔今宵の介助人に連れられた界隈の景色が蘇る。
中川五郎さんの「ピーター・ノーマンを知っているかい?」をはじめて聴いた。23番まであるロング「バラッド」だ。時間の都合で数日前急遽15番に圧縮したという唄いを披歴してもらった。圧倒的だった。震えた。
趙博の「青春の光と影」で「青春」の対語としての「白秋」を知り(青春・朱夏・白秋・玄冬。だって)、川口真由美さんのいくつかの歌にはいつもながら腹の底からのパワーをもらった。
裏猫キャバレーさんのコーヒー・ルンバ(替え歌)は絶品。
「共謀しナイト」は、例えば熊沢誠が言う『感性が鋭敏なはずの広義の表現者--例えば俳優、歌手、タレント、作家などの政治的発言が、結集して、政治家の欺瞞、憲法や沖縄や基地、核兵器禁止条約などにふれて、現政府をきっぱりと批判する意見表明に踏み切れば、世論は変わる。』へのささやかでも根強い、大きな動きへの架け橋だ、と思うのだ。

「ピーター・ノーマンを知っているかい?」。
(こむろ ひとし・シンガーソングライター、2018年6月15日号)
1968年のメキシコシティ・オリンピックにオーストラリアの白人アスリートとして出場、陸上男子200メートルの銀メダリスト。金メダルはトミー・スミスで世界新、銅メダルはジョン・カルロス。二人は米国の黒人アスリートだ。

当時の米国は人種差別撤廃、ベトナム戦争反対の波が高まっていた。表彰台でトミーとジョンが一対の黒手袋を分け合い、その拳を高く掲げた「ブラックパワー・サリュート」の写真は世界のメディアに流された。ピーターも二人に同調し、二人が胸につけた「人権を求めるオリンピック・プロジェクト」のバッジをほかの米国選手に借りて胸につけ意思表示した。

オリンピック後、三人はそれぞれの国から制裁を受けたが、ときは流れ、米国でトミーとジョンは名誉を回復、人権のために戦った英雄として2005年に「ブラックパワー・サリュート」をする巨大な銅像も建てられたが、オーストラリアのピーターは2000年のシドニー・オリンピックに招待されることもなく、悲運のまま06年に心臓発作で他界した。

ピーターの葬儀で棺を先頭で担いだのはトミーとジョンだった。どのように悲運だったかは、23番まであるこの「バラッド」(物語り歌)にくわしい。

「ピーター・ノーマンを知っているかい?」の23番最終章はこう締めくくられている。

〈あれから50年の歳月が流れた 今の世界は自由で平等なのか? あなたのまわりで差別が行われたり 人権が奪われたりしていないか? ひとつの国や民族を排斥したり 酷いヘイト・スピーチが聞こえてこないか? たったひとりで立ち向かうあなた 自由と平等、人権のために でもあなたのまわりを見回してごらん あなたは決してひとりではない あなたのそばにはピーター・ノーマン あなたのピーター・ノーマンがいる〉

これが、この歌で五郎ちゃんが言いたかったことだ。等身大の五郎ちゃんが、等身大のあなたに向かって歌い、社会にプロテストする。ガチガチの真面目人間からはほど遠く、酒飲みで、スケベで、どこにでもいそうな、偉大な中川五郎。中川五郎は、日本で今一番のバラッドシンガーだ。

(こむろ ひとし・シンガーソングライター、2018年6月15日号)