歌遊泳: ちあきなおみの何が響くのか?
品川宿たそがれ氏推薦の敗戦直後期必読三冊: 『敗北を抱きしめて』(ジョン・ダワー、岩波書店) 『拝啓マッカーサー元帥様』(袖井林二郎、岩波書店) 『占領下日本-OCCUPIED JAPAN-』(半藤一利・保坂正康・他、筑摩書房) は、 チームちあきが選択した歌・歌唱の気分に重なるのです。ゴンドラの唄は戦前、他に海外の歌・古い歌・60年以降の歌もありますが、 不思議なことに、聞こえて来る歌唱はことごとく、ぼくを敗戦直後時空へと誘うのです。
「別れの一本杉」の痛切の別れ(遠い遠い想い出しても遠い空♪)。 「さとうきび畑」の静かな、だからシッカリ響く怒り(海の向こうから戦がやって来た♪)。 「朝日のあたる家」の渇いて開き直っても、「和解」と「赦し」に至ろうとする心。
たそがれ映画談義: 耳に残る幼き者の叫び-②
大都会に辿り着いたミンジの「ホエクー捜索行」を追う映像は、大都市の発展とともに、野放しの児童就労などその影の部分も映し出す。現代中国の都市と僻地の格差は想像を絶し、その範囲はインフラ・産業・就労・収入・教育など全ての領域に亘っている。
TV画面を見つめるホエクーの、みるみる歪んでゆく表情……。
大げさに言えば、このシーンは、個人の利害・私欲から出発した少女の取り組みが「教育」や「自主」の核に迫る瞬間を、捉え得たものだと思えるのだ。イーモウは発展を全否定しているのではない、あるいは発展の果実に溢れるこの時代を呪っているのでもない。発展によってしかカバー出来ないものの存在の多きことを大中国の現実の中で、痛い想いで充分に認めているのだ。ただ、ミンジやホエクーを排除しての発展なら、そんな発展は要らない! そう言っていそうだ。
たそがれ映画談義: 耳に残る幼き者の叫び-①
『蝶の舌』 (1999年、スペイン) 監督:ホセ・ルイス・クエルダ 出演:フェルナンド・フェルナン・ゴメス、マニュエル・ロサーノ。
1936年2月、スペインでは選挙で左派が勝利、「人民戦線政府」が誕生する。 同年7月右派ファシストが反政府クーデターを開始、8月モロッコに本拠を置くフランコ軍が本土に上陸、内戦状態に突入。 内戦は国際化し、イタリア・ドイツは反乱軍支援、欧州各国は不介入宣言、ソ連は人民戦線政府に戦車・大砲・飛行機など武器援助、各国からは義勇兵が駆けつけ、人民戦線内に「国際旅団」も作られた。アーネスト・ヘミングウェイ、アンドレ・マルロー、ジョージ・オーウェルなどが、それぞれの思想・立場から参加。
共和国政権の内部は、穏健共和派、自由主義者、社会党、親ソ共産党、反スターリン派(POUM、オーウェルはここに参加)、労働組合では社会党系UGT、アナキスト系CNT(人民戦線には参加していない)といった具合の混成だったが、現代思想と20世紀政治運動の百貨店だったとも言われ、内部混乱は激しかった。加えて右派ファシストの妨害、国際的包囲網。政策決定・実施には、難渋を極めた。
(廃墟と化したゲルニカ)
37年4月、フランコ反乱軍を支援するヒットラー・ドイツは、空軍コンドル部隊を北部バスク(保守層も支持する、反中央の自治政府)に差し向け、『ゲルニカ』に対して「都市無差別爆撃」(ピカソ「ゲルニカ」)を実施。 37年5月、バルセロナ市街戦では親ソ派共産党は、アナキストの排除、反スターリン派の排除(つまり内ゲバ)を徹底して行なった。 39年1月バルセロナ陥落、39年3月マドリード陥落。フランコ派勝利。 市民戦争・内戦・市民革命・・・色々な名称で呼ばれている現代史の縮図、スペインの3年間。
さて、『蝶の舌』は36年春から同年夏(ファシスト反乱の最初期)までの、混乱があって緊迫していても、「人民戦線政府」が輝いていた短い時間を背景にしている。とっつきにくくとも少年モンチョが心を開くことが出来た老教員グレゴリオは、教育と社会に信念を持っていて、それを穏やかに実践するベテランだ。喘息持ちのモンチョは入学時に[おもらし]をして出遅れるが、学校に馴染ませてくれたのは、先生だった。野に出て命を伝え感じさせてくれたのは先生だった。蝶に渦巻き状の舌があること、欄の花をメスに贈る鳥:ティロノリンコのことを教えてくれたのは先生だった。 36年夏、老教師グレゴリオはモンチョとの交流の場面で言う、 「人にいってはならん、これは秘密だ。あの世に地獄などない。憎しみと残酷さ、それが地獄の基となる。人間が地獄を作るのだ」(作者は、この会話に加え、ラストシーンで軍ファシストの後方に神父をウロチョロさせ、怒りを込めてカソリック教会が果たした役割を暗示している)
そして短い夏の終り、退官講話の席でこう語る。「誰も、春に愛を交わすために古巣へ帰る野鴨を、止めることは出来ません。羽を切ったら泳いで来ます。脚を切ったらくちばしを櫂にして波を乗り越えます。その旅にいのちを賭けているのです……。いま、人生の秋を迎えどんな希望を持てるのか……実は少し懐疑的です。オオカミはきっとヒツジを仕留めるでしょう。」グレゴリオはこの政府と自分達の運命を覚悟していた。
田舎町にもファシスト反乱軍の暴虐が押し寄せる。「共和派」が拘束され連行されて行く。その中に町長や老教師グレゴリオが居た。街の人々は、連行する側のファシストに媚びて、口々にグレゴリオらをののしっている。 母親に「あんたも言いなさい」と促され、モンチョも言う。「アカ!」 「アテオ(無心論者)!」・・・・。詰め込まれた護送トラックの荷台に立つグレゴリオ、石を投げつける少年たちの輪に入ってしまうモンチョ・・・。 モンチョが最後に発する言葉・・・あゝ、それはこの映画のタイトル「蝶の舌!」であった。 親愛と尊敬の情を、このようにしか表現できなかった少年の無垢な心に、ぼくは嗚咽した。グレゴリオとモンチョの交流交感はこうして圧政と社会によって断ち切られたが、21世紀の今も、深く繋がって生きているのだ。それが、痛切の記憶というものだ。
1936年、国民的詩人:フェデリコ・ガルシア・ロルカはファシストに虐殺される。四方田犬彦は書いている。 『ロルカの死は悲痛きわまりないものである。その悲痛さを克服するためには、何をしなければいけないのか。 それは祈ることではなく、記憶することだ。記憶が、たどたどしく築きあげる歴史から、われわれは学ぶことはできる 』と。 記憶とは そういうものだ。
余談ですが、故:アジェンデ・チリ大統領はバスク系の人です。 1973年9月11日、サルバトール・アジェンデ 最後の演説 (ピノチェト軍が包囲する、サンチャゴ・大統領府「モネーダ」より) http://www.youtube.com/watch?v=SG3f08LVwhE
たそがれ映画談義: 洲崎パラダイス赤信号
『洲崎パラダイス赤信号』(1956年、日活) 監督:川島雄三 出演:新珠三千代・三橋達也・轟夕紀子・芦川いづみ。

パラダイス(売春街)への入り口に架かる橋が比喩的に登場する。その橋のたもとにうらぶれて立つ呑み屋で、あっちへ行くかこっちに残るか……ギリギリ踏みとどまっている女、蔦枝(新珠三千代、意外にも見たことないほどのハマリ役だった)と、何をしても続かないダメ男:義治(三橋達也)との、「明日」の見えない「今日」につまずいて漂う男女。 「戦後」を生きあぐねるその姿を通して戦後空間の時代不安を活写していた。 女は橋を渡(昔居た世界に戻)らなかったのだ。
社会が落ち着き始め、復興の明るい未来への展望も拓けている。公務員・サラリーマン・他、その流れに与する人々から隔たったひと組の男女。(06年1月、カルチャー・レヴュー57号投稿自原稿より転載)
新珠三千代:1930年生れ。宝塚出身。1951年、東宝から映画デビュー。1955年、宝塚退団、日活入社。57年東宝に戻る。 森繁「社長シリーズ」など東宝現代喜劇に欠かせぬ「夫人」役(もったいないねぇ)をこなした。 和服の似合う清楚高潔な「伝統的な日本女性」としてのイメージを保ちつつ、娘役から母親役まで、 良妻賢母から悪女まで幅広い役柄を演じられる女優として各方面から絶賛された。【ウィキペディアより】
『・・・赤信号』は、橋を渡らぬ女を演じて、後にも先にも無いほど役を我がものにしていた。彼女26歳時の作品だ。 2001年3月没(享年72歳)、合掌。
つぶやき: 民主党に告ぐ
突然ですが

弾圧の厳しい戦時下にあって、京大俳壇は
国家・社会に対する批判精神を持ち続けた。
各誌は廃刊に追い込まれ、白泉も検挙された。
季語を超越した季語だと言われている 。
玉音を理解せし者前に出よ (1945/昭和20)
歌遊泳: 石狩挽歌
歌遊泳&交遊録: アカシアの雨がやむとき
松田聖子 http://www.youtube.com/watch?v=jpJjCGVS3-E 高橋真理子・工藤静香 http://www.youtube.com/watch?v=D1rFfFbhxtw 戸川純 http://www.youtube.com/watch?v=dean1ozOdsg&feature=related フランク永井+ニニ・ロッソ http://www.youtube.com/watch?v=bn_tfRB8zQc&feature=PlayList&p=51193832371DE118&playnext=1&playnext_from=PL&inde 坂本冬美 http://www.youtube.com/watch?v=SwRO9kCm5vo 石川さゆり http://www.youtube.com/watch?v=VqxUwELbnc4 おおかた静流 http://www.youtube.com/watch?v=GEodr7rHYw0&feature=related 西田佐知子 http://www.youtube.com/watch?v=msSznHB4OyY
つぶやき&歌遊泳: 【おさななじみ】異論
地方を含め、物資不足・勤労動員・ひもじさや父不在、
そうした戦争期の社会構造や風景の中で生きたはずだ。
自身でなくとも、父や母、兄や姉、身近な者の「戦争」を因とする受難も見たはずだ。 痛苦の記憶の味・匂い・香りを、 「青いレモンの味」一本へと変換する装置こそが、公的記憶の無化装置であり、
歌遊泳: 永六輔・中村八大の登場
作詞:永六輔、作曲:中村八大は、六・八コンビと呼ばれた。
『夢で逢いましょう』(TV番組主題歌61年)、水原弘:『黒い花びら』(59年)『黄昏のビギン』(59年)、 坂本九:『上を向いて歩こう』(61年)、ジェリー藤尾:『遠くへ行きたい』(62年)、梓みちよ:『こんにちは赤ちゃん』(63年)、 デューク・エイセス『おさななじみ』(63年)(北嶋三郎『帰ろかな』はオリムピック後の65年) 敗戦後社会の貧困を脱し(朝鮮戦争<50~53>特需がその出発なのだが)た社会が、 東京タワーを完成(58年末)させ、東京オリムピック(64年)へ向かう頃・・・・、何かを置き去りにして発展を謳歌する世に、コンビは歌を提供した。 さて、上記六・八になる歌は、正に豊かさが始まり全国に行き渡る時期の代表歌謡群だ。
『アカシアの雨がやむとき』(60年)を聴いていた(あるいは歌っていた)学生さんも、 60年安保敗北の湿った『挫折』病(?)から立ち直っ(た振りをし?)て、高度経済成長社会(岸退陣後、池田「所得倍増計画」)へ向かう。 やがて、モウレツ社員と呼ばれることとなる世代だ。六・八コンビの歌は、その時代の明暗の、どちらかと言えば「明」の部分からの逆説、 個的世界を謳歌することの意味を堂々と主張していたように思う。「戦後」後的なのだ。 経済発展に付帯して当然に持つべき「先進国的個人」の「自己主張」の大衆的開始だった(ぼくの中高時代に当たっている)。 それは、まるで、やがて来る、経済成長が抱えきれない生産と消費の矛盾、侮れない若者の量的存在、など時代的なある「飽和」が、 個と社会との抜き差しならない関係となり、いわゆる『大衆反乱』(実は学生世代だけの)となる60年代末への予告編でもあった。 60年代末の学生反乱からさらに世紀末の大学、21世紀大学を論じて同世代の論者三浦雅士はこう言っている。 「自動販売機に敗れ去るセールスマンの物語『セールスマンの死』(アーサー・ミラー) の五〇年代からさらに加速される変化は、 六〇年代の『大学=労働力商品の大量生産工場』を経て、 いまや大学は工場でさえなく、『大学自体が自動販売機化』している」 (『青春の終焉』、2001年、講談社)
さて駄話は尽きないが、六・八コンビの歌の中から「ひとつ」と言われれば、私は、『黒い花びら』か『黄昏のビギン』なのだが、 『黒い花びら』は大ヒットしたしあまりにも有名なので、ここでは【黄昏のビギン】(1959年)としておく。ここでも、ちあきなおみさんが圧巻だ。
前川清
http://www.youtube.com/watch?v=kLhK7PAd2hM 夏川りみ
http://www.youtube.com/watch?v=KEKFY7yuT8c 石川さゆり
http://www.youtube.com/watch?v=aSzgIqUTRqM&feature=related
ちあきなおみ
http://www.youtube.com/watch?v=VcsDsOEU3B0&feature=related 水原弘
http://www.youtube.com/watch?v=SqJJPxwSYho
この歌には、他の六・八歌には無い「陰り」がある。敗戦後社会と経済成長社会との交差期、そのあわいに宿る、 まだ高度成長が身に付かない敗戦後を引きずっているような空気、 東京タワーの威容も、見上げれば足許が揺れそうで、シックリ来ないような違和感・・・。傑作です。
だが、実はぼくは、六・八コンビには言いたいことがある。一昨年書いたもので、次回 載せる。
歌遊泳: 酒と泪と男と女
【酒と泪と男と女】
みんな呑兵衛ェなんやろかね!
23歳・46歳とある河島英五さんには、是非60代後半の歌唱を聞かせて欲しかった。
きっと「呑んで呑んで呑まれて呑んで」のところ、力んでは歌えんでしょう。
第一、歳食えばそんなにガブ呑みは出来ませんしね。
ところで、ここでも先日同様、ちあきなおみさんがええね。
和田アキ子
http://www.youtube.com/watch?v=lp78rRty0v0&feature=related 堀内孝雄
http://www.youtube.com/watch?v=R1fc0iVhRVo 金蓮子(キム・ヨンジャ)
http://www.youtube.com/watch?v=n_Hj_HnXgn0&feature=related 鳥羽一郎・五大夏子
http://www.youtube.com/watch?v=uCCt0B32YOQ&feature=related 杉良太郎
http://www.youtube.com/watch?v=T5Fs63W7VJ0 ちあきなおみ
http://www.youtube.com/watch?v=gydiqOmRrU8 河島英五(23歳)
http://www.youtube.com/watch?v=-4m1GPE35rg&feature=related 河島英五(46歳)
http://www.youtube.com/watch?v=tQG1pt_oUls&feature=related