たそがれ映画談義: 『深呼吸の必要』-「達成感」 の行方

ずっと「達成感」力説篇は苦手だった。が…

10月22日朝日夕刊に、兵庫県伊丹市立天王寺川中学の運動会の取組:「3年生全員146人(組み手は137人)による10段人間ピラミッド」の、カラー写真5枚付き・五段抜き という異例の記事を見た。                                                                                                        YouTube に画像ありとあったので、開いてみた。感心すると言うか、感動に近いと言うか、生徒達の達成感が伝わって来ると言うか・・・                                                                                兵庫県伊丹市立天王寺川中学:組体操「未来への誓い」(10段人間ピラミッド)。http://www.youtube.com/watch?v=PEMdfqZFiR0                                                                                  アクセス殺到である。危ない、事故ったらどう責任を取るのだ、この教師が目立ちたいのだろうと種々の異論もあるそうだ。「達成感」力説篇は時にいかがわしく、しばしば達成「させる」側の魂胆が透けて見えたりもする。ひねくれ者のぼくは、常々眉に唾して「共感」を自制する回路をONにして、それとは距離を保って来た。昔、息子のラグビー観戦で、強豪校相手の残り2分からの奇跡的逆転勝利を観てウルウルするまでは・・・。このピラミッドも 何らかの恣意的な力が働かない限り、その行方は彼ら当事者のものだ。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      

『深呼吸の必要』 (04年松竹、監督:篠原哲雄)                                                                                  

五年近く前、沖縄通から「ええ映画やで。是非観てや」と言われながら見る機会がなかった映画を、先日観た。                                                                                                                                                                                                       04年製作だから6年前の映画だが、『深呼吸の必要』という映画だ。                                                                                                                    沖縄の離島に、                                                                                                          さとうきび刈りの短期アルバイトにやって来た若者たちの物語だ。若者たちは、                                                                                                       それぞれ都会の労働や社会・人間関係に傷つき・敗れ・疲れ、                                                                                       寝床食事付・日給¥5,000で、沖縄の自然も満喫できるかも・・・と癒されに来るのだ。                                                  広大なさとうきび畑に尻込みする間もなく始まるとうきび刈りの重労働。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    その悪戦苦闘と、「逃げてきた」自覚が互いにあって皮肉を言い合う人間模様、                                            短くとも、協働・共助・強いられたのではない自発・「We」 を味わえた時間、                                                                                            若い働き手不在で、毎年若者を募集している畑の持ち主オジイとオバアの人柄。                                                                                                                                      畑全部の刈取りを果たすまでの短期間の物語だ。                                                                                                                   予告編     http://www.youtube.com/watch?v=e_iTzj3_2Gk                                                                                                              メイキング1  http://www.youtube.com/watch?v=JBHGsssZSnQ                                                                                                              メイキング2  http://www.youtube.com/watch?v=KcJpaMINI1k&feature=related                                                   不思議なことに、この映画の出演者(香里奈・大森南朋・谷原章介・成宮寛貴・長澤まさみ・等)は、今、2010年時点では                                                                                                                                                                                                                                                                                         ことごとく売れっ子になっているが、全員が、この映画撮影時の現場での                                                                                                                                                                           解放感・連帯感・達成感とストーリーへの感情移入が、その後の支えになって来たと語っているという。

達成感やそこに至る過程は、利用されない限り(利用を阻止する固い意志がある限り)、                                                                                                   つまり仮想敵を設定せず・排他的でなく・用意された効用を画策しない限り、認めたい。                                                                                                                                                                    軍国モノや、今日的愛国期待モノには、虫唾が走る「達成感」「礼賛」に終始するような「物語」が溢れているのは事実だ。                                                                                                                                                                                                                      この映画への異論もどこかで読んだ。曰く「沖縄の現実を覆い隠している」。                                                   「製作・公開前後とは、まさに、03年11月ラムズフェルドが普天間基地視察、04年4月那覇防衛施設局が辺野古沖現地調査開始、                                                                                                              
04年8月沖縄国際大に米軍ヘリ墜落だ」 などと書いてあった。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         辺野古沖のジュゴン保護の観点を「オバサン視点で、安保を覆い隠している」と言う人がいるが、                                                                   先日のCOP10名古屋の論議でも明らかなように、                                                                               それは、グローバリズム産業の農漁業破壊・大規模自然破壊・農漁業支配と                                                             密接に直接間接に関連しているようだ。当然、その推進の両輪の一方であるのが軍事でもある。                                                                                                                                                                                                                       この映画の「達成感」に至る過程で、若者が取合えず味わった協働・共助・解放感・自然・沖縄の心・等々、                                                                                                                                                                                                                                                                     それらの向こうに見えてくるものの中に、異論者が言うことどももあるに違いないが、入口は、多数在ってしかるべし。                                                                                                                                                                      中身も出口も背景も、心ある者ならばそれを視ずに済む行方などないはずだ。 「逃げてきた」? 「オバサン視点」? それでいいのだ。                                                                                                                                                                          

「We」が何故、半植民地と言われる沖縄の、基地のない離島の、約ひと月「だけ」に、 可能だったのか?                                                                                                                    ぼくらと彼らの「行方」には、そのことの理由を日々見せ付けてくれる沖縄と日本の現実がある。                                                                                                                                                                                                              

                                                                                                                                                『「We」の不在』 http://www.yasumaroh.com/?p=6376                                                                                                                                                                                                 『ここに「We」がある』 http://www.yasumaroh.com/?p=8634

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