通信録: 年寄りの冷や風

寒風の木更津

有名ブランド品がアウトレット価格で購入できるメーカー・ブランド直営のアウトレット・モールが全国各地にある。チェルシージャパンが業界一位、三井不動産が運営する三井アウトレット・パークが二位だそうだ                                                                         チェルシーの御殿場・りんくう・神戸三田、三井の横浜ベイサイド・幕張・マリンピア神戸などが有名だそうで、甲子園球場の十ン倍の敷地に百数十店を擁し、フードコートや遊戯施設や憩いの庭園を配し、それこそ一日中楽しめる一大ショッピングモールを形成している。ブランド品志向の人々が押し寄せているそうな。

千葉県木更津に4月13日のグランド・オープンを目指して、「三井アウトレットパーク木更津」の工事が急ピッチだ。                                                 その中の一店の内装工事を品川ヤスマロが籍を置く会社が孫請けしている。春先の繁忙期、人員配置の限界から、ヤスマロは本来の管理者が到着するまでの5日間だけ現場管理の「代行」で現場へ向かった。アウトレット・モールを見たことも行ったこともない時代遅れのヤスマロは、その敷地のデカさにビックリ。普段、街なかの商業施設やオフィスの施工をしている身には巨大な施設の景観は未来都市のように無機質で、やたら広い駐車場スペースは宇宙遊覧旅行の順番待ちに並ぶ空飛ぶ自家用車の待機場所のように見える。                                                                                                                          他のアウトレット・モール同様、車での来客が前提で、かなり辺鄙な場所にあって、付近には飲食店はもちろんコンビニもない。おそらく農地だったのだろう・・・。                                                                              海から直撃の敷地を吹き抜ける寒風が放つ音は、農地の解体という出来事に象徴される「波」「流れ」に抗しきれないその地の空気の喘ぎ声のように聞こえた。 

ヤスマロは近年ますますトイレが近い。頻繁に現場の仮設トイレに向かうにも、ぬかるんだ未舗装のドロ路をグルリと歩くのだが、「どろ路にふみ迷ふ」(西脇順三郎「旅人かへらず」)などとつぶやいて、ギリギリのセーフを繰り返してヘトヘト。                                                                                                                                                                         現場管理の諸手続きに慣れない者には結構煩雑(慣れれば簡単なことなんですが)で、初日・二日目と続けてミスをした。提出時刻の勘違いと、作業員(その日は8名)の一人が緊急連絡先を未記入。各工事区画の現場管理者全員が参加する定例会で、お叱りを受けてショボンとしていると、昼食時、この昼食は朝9時半までに申し込み配達されてくる給食屋の弁当なのだが、その昼食時に、大きな声で叱責した当の若い全体管理の「監督」が近寄って来た。                                                                                 「先ほどは失礼しました。貴方は見かけないから最近入場なさったのでしょうが、何度言っても同じ間違いを繰り返す人が多いんですよ。その人たちへの警鐘を込めて言い易そうな貴方に言わせてもらいました。すみません。」                                                                                                             「いえいえ、当然です。こちらが悪いんです。しかし、ぼくは言い易い顔してます? 逆に言いにくい怖い顔だと言われていますが・・・」                                                                                                              「失礼ですがおいくつですか?」                                                                                             「実は、現場規定では高齢者でもある**歳です」                                                                                             「そうですか。私のオヤジよりご年配だ。人生の先輩に失礼しました。貴方のお顔はオヤジに似てるんです」                                                                                                                                                施工区画へ弁当を抱えて戻る途中、寒風に晒されて目に異物が入ったわけではないのに、込み上げるものを感じて、ヘルメットの庇を下げて顔を人に見られないようにしていた。

5日目に本来の現場管理者と交代したのだが、早朝7時からの朝礼・寒さと広さと安全対策と諸手続などから解放されてホッとする反面、もう少しこの現場に居たい様な奇妙な気分で、東京湾アクアライン高速バスで都内の事務所に戻った。                                                                                                                                                                                  近未来に、この若い「監督」のような感性、気遣い、働く優しさは通用し続けるだろうか・・・?                                                                                                                                                 近未来をハシズム派に委任してはならない! 

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